🚙 車の灰皿が空になる日
走っている車から家族は降りられません。家全体が大きすぎるなら、まず車から。
車の灰皿は、家族の沈黙をよく知っている。
運転席では、信号待ちの一本かもしれない。
窓を少し開ければ、煙は外へ出ていくように見える。
けれど後部座席にいる家族にとって、車内の空気は選べない。
走っている車から途中で降りることはできないし、嫌だと言ったところで目的地まで同じ空間にいるしかない。
家よりも、車の中は逃げ場が少ない。
灰皿に残った吸い殻は、運転した人の休憩の跡に見える。
だが、同じ空間にいた家族にとっては、吸うつもりのなかった煙の跡でもある。匂いはシートに残り、次に乗った時にも車の中にいる。
火が消えているのに、煙草の時間だけが車内に残っているようなものだ。