禁煙マスター JAENESKO

8️⃣ 煙のない喫煙所 - 第八章 灰皿のない朝

プレミアム ・ 禁煙文学部 ・ 2026-07-14 ・ 3分

三十二分遅れることもなく、昼休みが消えることもなく、何かの予定を忘れている感じもなかった。世界は別に輝いていなかった。鳥が鳴いていたわけでもない。朝食の味が急に…

翌朝、N氏は早く目が覚めた。

三十二分遅れることもなく、昼休みが消えることもなく、何かの予定を忘れている感じもなかった。世界は別に輝いていなかった。鳥が鳴いていたわけでもない。朝食の味が急に豊かになったわけでもない。

ただ、朝だった。

台所に行くと、妻が湯を沸かしていた。

「今日は早いのね」

「ああ」

「吸うの?」

N氏は少し迷ってから、首を振った。

「今はいい」

妻は「そう」とだけ言った。

その「そう」は、昨日までより少し長かった。N氏は食卓に座り、何もせず湯気を見ていた。湯気は煙に似ていたが、煙ではなかった。消えていくところも似ていたが、何かを燃やした匂いはしなかった。

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