5️⃣ 煙のない喫煙所 - 第五章 専門窓口
「話が違う。大切な時間は使わないと言ったじゃないか」
N氏は、店に苦情を言いに行った。
「話が違う。大切な時間は使わないと言ったじゃないか」
店員は、少しも困った顔をしなかった。
「お客様が大切に扱った時間は、使われません」
「娘との約束を楽しみにする時間が消えた」
「楽しみにしておられましたか」
N氏は口を閉じた。
楽しみにしていた、と言いたかった。だが、その約束を聞いた時、自分はおそらくスマートフォンを見ていた。返事だけして、内容を覚えていなかった。楽しみにする前に、どこかへ置いてしまったのかもしれない。
店員は、奥の扉を指した。
「ご心配でしたら、専門窓口へどうぞ」
奥には、小さな待合室があった。そこには、何人かの客が座っていた。中年の男、若い女、年配の夫婦。みな同じ銀色の箱を持っていた。