🖼️ 未完成美術館
高円寺には、まだ何者でもない人間がたくさん住んでいる。
第一章 夢追い人用煙草
高円寺には、まだ何者でもない人間がたくさん住んでいる。
バンドマン。役者。詩人。映像作家。アクセサリー作家。自称批評家。元美大生。現フリーター。名刺には肩書きが多いのに、確定申告の職業欄では毎年少し迷う人たち。
ミナも、その一人だった。
彼女はイラストレーターを目指していた。
正確には、イラストレーターになる予定だった。予定は五年ほど続いていた。昼は駅前の古着屋で働き、夜は六畳の部屋で絵を描く。はずだった。
部屋にはスケッチブックがある。ペンもある。絵の具もある。描きたいものも、たぶんある。
ただ、夜になると疲れていた。
古着屋の店長に小言を言われ、客に「これもっと安くならないですか」と聞かれ、休憩中にSNSを開けば、同い年くらいの誰かが展示をしている。知らない誰かが、知らない場所で、ちゃんと前へ進んでいる。